ピロリ菌感染
胃や十二指腸の炎症や潰瘍などの原因となっており、ピロリ菌感染がなければ胃がんになりにくいことがわかっています。ピロリ菌は感染する細菌で、胃の中という強酸の環境でもアンモニアを作って周囲を中和することで生息できます。こうしたアンモニアなどの毒素が慢性的な炎症を起こす原因になっています。炎症が長期間続くと胃粘膜が萎縮し、胃がん発症のリスクを大幅に上昇させてしまいます。ピロリ菌は除菌治療が可能であり、成功したら炎症や潰瘍の再発を抑えることができ、胃がんリスクも減らせます。ただし胃がんリスクがゼロになるわけではありません。またピロリ菌はヒトからヒトへの感染があり、胃酸や免疫力の弱い幼児期に感染すると考えられているため、除菌治療に成功するとこれから生まれてくる世代の子どもへの感染を防げます。
衛生状態の改善、除菌治療の普及、内視鏡検査による早期発見などにより、最近では胃がんによる死亡者数が減少しています。ピロリ菌感染の有無は内視鏡検査で組織を採取することで検査できますし、除菌治療は抗生物質2種類などを1週間服用するだけですからお身体への負担も少なくなっています。胃の調子が悪い場合や、ご家族に胃がんになった方がいる場合にはピロリ菌感染検査を受け、陽性だった場合は除菌検査を受けるようお勧めしています。
早期胃がん
胃粘膜の表面にがんがありますが、それ以上深くには進行しておらず、内視鏡手術で完治が望めます。仕事や生活にほとんど支障を及ぼさずに治療可能です。
進行胃がん
粘膜表面の奥には筋層がありますが、そこより深い部分まで進行しています。この段階でも自覚症状を現さないことも珍しくありません。他の臓器やリンパ節に転移している可能性があるので開腹手術や化学療法による治療が必要です。内視鏡による治療に比べ負担が増え、仕事や生活にも支障を及ぼします。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を低下させないよう、できるだけ早く適切な治療を受ける必要があります。
スキルス胃がん
がん細胞が粘膜の奥にばらばらになって広がってしまう腹膜播種を起こすタイプの胃がんです。転移しやすいため進行が早いという特徴を持っています。30~50歳の女性に発症が多く、比較的若い世代によく見られます。胃がんは有効な治療法が確立されてきていますが、スキルス胃がんは自覚症状がほとんどないことに加えて進行が早いため死亡率が高く、ご家族にスキルス胃がんを発症した方がいるなど高リスクな方は20歳代からピロリ菌除菌治療や定期的な内視鏡検査を受けることが不可欠です。
胃悪性リンパ腫
ピロリ菌感染と関連が深く、除菌治療の成功により長期生存率が大きく変わるという指摘がされています。悪性度が低く、転移していない状態でゆっくり進行しているケースでは除菌成功が特に有効であり、腫瘍の退縮、長期生存率90%以上、再発率3%程度という報告もされています。ただし治療はピロリ菌除菌だけでなく、開腹による外科手術や科学療法、放射線療法などを必要に応じて行う必要があります。内視鏡検査は組織の採取ができるため、ピロリ菌感染の有無や確定診断にも役立ちます。
胃腺腫
腺腫は良性の腫瘍です。ほとんどの場合、短期間にがん化することはありませんが、10年以上経過すると数%ががん化するとされており、形状やサイズによってリスクが左右されます。定期的な内視鏡検査による経過観察を行い、リスクが高い腺腫は内視鏡による切除も可能です。
胃潰瘍
ピロリ菌の感染や非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)によって起こることが多い疾患です。炎症を繰り返した胃粘膜が潰瘍になって深く傷付き、粘膜やその下の組織の一部が失われている状態です。ピロリ菌感染によるものの場合は、除菌治療によって再発予防につながります。薬が原因で起こっている場合には、処方の変更や胃酸分泌抑制剤などにより症状を改善させることができます。
胃粘膜下腫瘍
一般的な腫瘍と異なり、粘膜表面ではなくその下に腫瘍ができている状態です。粘膜下から粘膜を押し上げるように進行し、内視鏡検査では粘膜が膨らんでいる状態として発見されます。悪化は少ないのですが、サイズが大きいと肝臓やリンパ節への転移を起こす可能性がある悪性の胃GIST(消化管間質腫瘍)になることがあります。その場合は手術や分子標的治療などが必要になりますので、経過観察を定期的に受けてください。
表層性胃炎
表層性胃炎は、胃酸過多により胃の粘膜が炎症を起こした病気です。
ピロリ菌感染がない場合でも、胃酸過多、食べ過ぎや飲み過ぎ、ストレスなどをきっかけに発症することがあります。薬物療法で短時間に症状を改善できますが、再発しやすいため生活習慣や食生活の改善が必要です。
萎縮性胃炎
慢性的な胃炎が長期間続いて胃粘膜が萎縮している状態です。ピロリ菌感染があるケースが多いのですが、進行して胃粘膜が腸粘膜になってしまう腸上皮化生になるとピロリ菌も生息できなくなり、感染検査で陰性になることがあります。胃がんリスクがとても高い状態ですので、内視鏡検査で萎縮の程度やがん化の有無をしっかり確認する必要があります。
鳥肌胃炎
鳥肌が立っているようにポツポツ細かい突起がある状態で、リンパ濾胞が増生しています。胃の出口付近に発生しやすい傾向があり、進行が早いスキルス胃がんのリスクが高いため適切な治療をできるだけ早く受ける必要があります。ピロリ菌感染と深く関連しており、除菌治療が有効で、除菌成功によって痛みや不快感などの症状も改善が見込めます。ただし、除菌が成功しても胃がんリスクはゼロにはならず、ある程度高い状態が続くため、定期的な内視鏡検査が不可欠です。
胃憩室
憩室は粘膜に袋状に飛び出したものができた状態です。胃で憩室の発生が多いのは粘膜の下にある筋肉層が薄い入口と出口周辺です。憩室自体は特に症状を起こしませんが、炎症によって痛みなどを生じさせます。
胃底腺ポリープ
大腸ポリープと異なり、良性のまま変化しないことが多く、消えてしまうことも珍しくありません。ピロリ菌感染がない方が発生しやすく、女性ホルモンが発生に関与しているという指摘もありますが、発症の原因はよくわかっていません。
胃アニサキス症
アニサキスは魚介類の寄生虫で、生食や加熱が不十分なものを食べて感染します。サバ、イカ、サケなど流通量の多い魚介類に寄生していることが多く、肉眼でも発見できるサイズです。鮮度の高いうちに適切な処置を行えば感染することはほとんどありませんが、処置が遅れたり適切ではないと感染して激しい胃の痛みなどを起こします。人間の体内では1週間程度しか生きられませんのでいずれ症状は治まりますが、内視鏡でアニサキスを除去することができ、それにより症状が改善できるため早めに受診することをお勧めします。冷凍や加熱を必要な温度と時間で行うことでアニサキスは死滅しますが、アニサキスアレルギーがある場合には、死んだアニサキスを口にしてもアレルギー症状を起こします。