逆流性食道炎とは
胃酸が何らかの原因で食道に逆流してしまうことで食道に炎症が引き起こされる病気です。
食道に炎症が起こることで、胸やけ・呑酸・げっぷ・心臓の痛み・咳が出るなど、日常生活に支障を来たす症状がでます。
ひと昔前は、ピロリ菌に感染した方が多く逆流性食道炎になる方は少なかったですが、ピロリ菌を除菌された方や、もともとピロリ菌がいない方などが現在増えており、3~4人に1人は逆流性食道炎に罹患しているといわれております。(ピロリ菌が感染していると胃酸の分泌が少なくなります)
症状がひどい場合には日常生活に著しく制限がかかり、著しく生活の質が低下します。
胃の粘膜は常に胃酸に暴露をされているため、胃の粘膜は強く厚い構造をしていますが、食道の粘膜は非常に薄く胃酸に弱い構造をしているため、胃酸が食道に逆流すると容易に炎症を来たしてしまいます。逆流性食道炎が悪くなると、バレット食道→バレット食道癌に進むリスクがあります。再発しやすく、食道癌のリスクにもなるため、定期的な検査・治療が必要になります。
診断
逆流性食道炎は、逆流の有無を調べることで診断されます。検査としては下記となります。
- 食道内PH測定
- 食道内圧測定
- 上部消化管X線検査
- 上部内視鏡検査
食道内PH測定や食道内圧測定が一番しっかり診断できますが、入院が必要など負担が大きく、実施している病院もすくないのが現状です。上部消化管X線検査も逆流の有無や食道括約筋の低下を診断することができますが、X線を長時間受けることによる被爆の問題や体の外からX線を通して間接的に診るため解釈が難しく、熟練した検査者がいる施設といない施設では発見できるものも変わり、施設や施行医による精度の問題もあります。
上部内視鏡検査では直接状態をみることが出来るため逆流性食道炎の悪化の具合や、バレット食道の有無、食道癌の併発などもその場で評価することができます。
Fスケール
逆流性食道炎はFスケールというセルフチェック項目もあります。合計8点以上の方は、逆流性食道炎の可能性があります。
質問 | ない | 稀に | 時々 | しばしば | いつも |
---|---|---|---|---|---|
1.胸焼けやけがしますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
2.お腹が張ることがありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
3.食事をした後に胃が重苦しい(もたれる)ことがありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
4.思わず手のひらで胸をこすってしまうことがありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
5.食べた後、気持ちが悪くなることがありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
6.食後に胸焼けが起こりますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
7.喉の違和感(ヒリヒリなど)がありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
8.食事の途中で満腹になってしまいますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
9.ものを飲み込むと、つかえることがありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
10.苦い水(胃酸)が上がってくることがありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
11.ゲップがよく出ますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
12.前かがみをすると胸焼けがしますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
症状
- 胸やけ(みぞおち~胸の焼けるチクチクした感じ)
- 胸のしめつけられるような痛み
- 口にすっぱい苦い液体がこみあがってくる
- げっぷ
- おなかの張り
- 胃もたれ
- 喉の違和感
- 咳が出る
- 声がかすれる
- 耳の痛み
原因
胃酸が逆流しやすくなる体質・行動・年齢変化、胃酸が多くなるような生活習慣が考えられます。
年齢変化によるもの
- 食道括約筋の緩み
- 亀背
- 食道裂孔ヘルニア
年齢とともにしっかり閉まっているはずのつなぎ目が弱くなり、胃酸が逆流します。
体質によるもの
- 肥満
- 妊娠
- 便秘
上記理由により腹圧や胃の圧が高まることで、胃酸が逆流しやすくなります。
生活習慣によるもの
- 重いものを持ち上げる、ガーデニング
- 脂肪の多い食事、お餅など消化に悪い食事
- 甘い食べ物(チョコレート、あんこなど)、辛い食べ物の定期的な摂取
- 酸っぱい食品(梅干し、みかんなど柑橘類)の摂取
- コーヒー、紅茶などの過度の摂取
- 飲酒喫煙などの嗜好品の摂取
上記により、胃の内圧が増えたり、胃酸の分泌量が増えたり、胃の動きが悪くなり食べ物の停滞を来たすため症状が出現します。
治療
逆流性食道炎の症状は、生活習慣の改善だけでも良くなることがあります。まずは生活習慣を改善していただき、それでも症状が改善しないときには薬物治療となります。
生活習慣の改善
胃酸が逆流しないように、食後すぐに横にならないことや、腹圧が上がるような動作(前かがみの姿勢・草むしり・ベルトの締め過ぎ)などを避けることである程度の予防が可能です。逆流を起こしやすい食べ物として以下のものがあり食生活の改善も重要になります。
逆流性食道炎と強く関連した食品例:チョコレート、あん菓子、コーヒー(カフェイン)、ケーキ、アイスクリーム、ココア、酸っぱい食品(梅干し、みかんなどの柑橘類)、炭酸類、アルコール、たばこ
- 高脂肪食などの消化に悪い食事の摂取制限
- 甘い食べ物、辛い食べ物の摂取を少なくする
- 酸っぱい食品(梅干し、みかんなど柑橘類)の食べる量を少なくする
- コーヒー、紅茶の飲む回数を減らす薄くする
- 禁酒、禁煙を行う
具体的には、上記を行うことで症状の改善を認めることが多いです。
薬物療法
生活習慣の改善を行っても、逆流性食道炎の症状が治まらないときは下記のような薬物療法で症状をコントロールします。患者さんの症状や原因に応じて、適切な内服薬を選択します。
- 粘膜保護薬(食道・胃の粘膜を保護します)
- 胃酸分泌抑制薬(胃酸を少なくして食道の炎症を減らします)
- 胃酸中和薬(アルカリ性の薬剤で胃酸を中和します)
- 消化管運動機能促進薬(食道や胃に停滞している食べ物を送り出す運動を亢進させます)
1つの薬剤で治療を開始しますが、症状が改善しないときは、効果の違う薬を併用することで治療効果が上がりますので、患者さまの状態にあわせて治療薬を選択します。
手術療法
通常の治療で十分な効果が得られないケースや、長期服用による弊害が予想されるケース、そして重度の食道裂孔ヘルニアがあるケースでは手術を検討します。手術が必要になるケースでは食道裂孔ヘルニアを併発していることが多いため、まずは裂孔から胸部にはみ出した胃を腹部に戻す修復を行います。その後、胃液や内容物の逆流を防ぐために食道下部を胃で包むようにする噴門形成術を行います。逆流を起こさないようにする手術ですが、食道から胃への通過を妨げることがないように留意する必要があり、知識と経験、そして繊細な手腕を必要とする手術です。手術が必要な場合は、大学病院など経験豊富な施設にご紹介いたします。